2015年5月20日水曜日

ダウン症候群による大進化?-18、13トリソミーとの関係

 私が一部の産婦人科医の方々が遺伝性疾患の患者の合意なきまま、遺伝性疾患をターゲットにした新型出生前診断(NIPT)を導入し、着床前診断(PGD)を規制している、そしてこれからNIPTはもっと対象疾患の範囲が拡大するだろうと感じているように、ダウン症候群の方々も同じように頭越しに何かが議論されていくことに、違和感を感じているだろうと想像しました。
“Nothing about us without us"(私たち抜きに私たちのことを決めないで*)というスローガンもあるように、直接的に、ダウン症候群の方々に読んでもらえる文章にしようと思いたち、この節のみですます調で記することとしました。ですます調で記したところで、ダウン症候群の方々が読まないだろうと考えるのはおそらく思い込みで、症候群なので重症度の幅があるため、読んでくれる人口が存在すると思います。非常に具体的に言うと、岩本綾さんを想定しました。

 18、13トリソミーの患児達の姿を前の節で示したので、特に成人の寿命が伸びつつあるという特徴をとらえて、ダウン症候群の方々の写真を挿入します。全部ヨーロッパ人になっているのは、啓蒙のためにパブリックドメインとしてダウン症の写真を提供してくださっているdownsyndromepictures.orgにアジア人の写真が見つからなかったためです。女性の写真と男性の写真がありますが、それぞれ同じ人物ではありません。たまたま患児、成人、女性、男性の写真を均等にしようとしたところ、こうなりました。

 NIPTが現在日本で対象としているダウン症候群について、なぜ愛らしい様相に恵まれるのか、私なりの仮説があります。実は、他の病気なら中絶するが、ダウン症候群に厳密に限ってなら産んでもいいかもという意見は多いのです。普通、そういう事態は遺伝病ではありえません。

 女性たちは彼らのことをかわいいと言います。天使だという人もいるそうです。他の疾患の患児の方々には大変失礼なのですが、普通、疾患を持った子供は健児より多少は様相において苦しいものです。他の疾患の患児の総数の方がダウン症候群の総数よりも多いと思うので、少数派を貶めているわけではないのでご容赦ください。ともかく、たまたまダウン症候群だけが、魅力的な外見に生まれてくるために、いくら可愛くても環境的存在でもある子供本人のために産んじゃ駄目だとか、何か特殊な議論が巻き上がる、そんな偶然があるのでしょうか? 私はそれは偶然ではないのではないかと思います。

 ダウン症候群では染色体が1本増えます。染色体が1本増えるというのは、生物の歴史の中で数えてみると、ヒトであっても23対しか染色体がないので、1本の染色体しか持っていなかったバクテリアから数えると、2倍体となった最初の1回と、その後1対ごとの22回で、合計23回しか起こって来なかったことになります。例外も多いのですが、あくまで基本的には、染色体が増えることは進化しているということを意味します。その最後の23回目の時に、我々は一度はダウン症候群のようなお父さんとお母さんを通って、その子どもとしてヒトに近い形になったのではないかと想像します。あくまで仮説ですが、そう仮定すると、ダウン症候群を患った時のいろいろな特徴が説明できます。

 次の[染色体が1対増える過程...]の節で図を示して説明するので、ここでは大きくかいつまみます。

 そのお父さん、お母さんが生まれた、ヒトのずっと前の種だった両親から見て、ある程度魅力的でないと、育ててもらえないし、配偶者を得て結婚することもできないでしょう。多少弱くても、その弱さを補うくらい魅力的な外見をしていなければ、配偶者を持つことができずにヒトの先祖とはならなかったのではないでしょうか。

 ダウン症候群は、他のほとんどの病気が寝たきりになるのに対して、不思議なぐらい元気になります。この特徴は普通の病気としてはありえないことで、そういう病気がたまたま、偶然、存在して、かなり多数の患者がいるというのは、とても不自然で、ひょっとすると、ずっと昔にそうなる必要性があったから、現在でもまだ、それが続いているのではないかと考えた方が、納得がいく面があると思います。

 つまり、単なる病気というよりも、染色体の進化の中継ぎをするための、多少体の弱い人々で、心臓などの合併症があるため治療は必要だけど、原始時代には普通すぎて必ずしも完全には病気とは呼べず、はるか昔には健常者との区別がなくて、ただやたら元気だけど早くに心臓病で天に召される人たちということだったのではないでしょうか。

 ただ、それでも、やはり私は、ダウン症候群の方々の中に、新型出生前診断(NIPT)の普及に反対をしている方々がおられるのは納得がいかないのです。[変異のスピード調節 - 最も強く訴えたいこと]の節でも触れましたが、私が共感を覚える柳澤桂子さんの『認められぬ病』の中の言葉をもう一度繰り返します*

 すんでしまったことはどうでもよい。ひとつの症例として、私に起こったことが、あとからくる人の治療に少しでも生かされればと願った。
 人間にわかることはかぎられている。それを超えてしまったときには、どうすることもできない。医学の限界を超えたところでは、自分でその苦しみを受け入れるしかない。人間であることの苦しみを苦しみぬかなければならない。

 自分の子供に遺伝病をうつしてしまわないようにできる努力はしなければならないと思うし、ましてや意図的に自分の子を遺伝病の状態するという暗い欲望は断ち切らなければならないと思います。そういう欲望の一部は本能から来ているもので、ヒトは動物として自分の同類集団が大きいことを望むようにできています。例え子にとって不都合な疾患であっても、自分が味わっている疾患だったら遺伝させていいのではないか、何しろ親なんだから、漠然とそういう考えに流されがちですが、やはり子が自分が死んだ後何十年も生きていかなくてはならないことを考えると、子という別の個体に疾患の危害が及ぶことは、できる限りの努力で阻止しなければなりません。

 他人が患ってしまう場合にも同じことが言えると思います。我々は漠然と同類集団が大きくなって自分たちの勢力が増した方がいいのではないかと思っている、本能に裏打ちされた心理があります。それに打ち勝って、理性的に思考し、他人を自分の不幸に呼び寄せるのを避けなければ、私達は進化していないことになってしまいます。

 NIPTで予防しようとしているのは、ダウン症候群ばかりでなく、18トリソミーと13トリソミーの、ほぼ1歳を待たずに天に召される患児も含んでいます。あまりにも早くに亡くなってお墓に入るので、ダウン症候群のようにNIPTに抗議をする生きた人口として存在することさえないのです。過酷な言い方かもしれませんが、ダウン症候群でNIPTに反対した結果、日本の10万人の妊婦がNIPTが受けられる地域に住んでいるのに、5%の妊婦がNIPTを受けるのをやめて、5千人の出生にたいして、およそ5千人に一人の発生率で18トリソミーを生じれば、ダウン症候群がNIPTに反対したために、毎年1人が、病院から出ることもなく、外を歩くことも、何か一つでも食べ物を食べることさえなく、生命を落とす計算になります。少し単純化しすぎかもしれませんが、統計をとればもっと正確な数値が出ます。果たして、18トリソミーと13トリソミーで天に召される患児の方々が、何の罪を犯してこんな酷い目に合わなければいけないのでしょうか。その理不尽を誰よりもご存知なのは、ダウン症候群の方々なのではありませんか?

 補足ですが、18トリソミーも13トリソミーもダウン症候群と同じように、症候群付きで、エドワーズ症候群*、パトー症候群と呼ばれていて、個人差はとても大きいです。13という数の少ない方が平均した症状として重いことを思い出すために、なるべく症候群の名前よりも数字で呼んでいます。症状の個人差が大きいために、すぐに思い出せなくなって、とても覚えにくいです。

 確かに、胎児を殺す中絶というのはいけないことですが、あかちゃんの形で殺すのはもっといけないことです。本当は胎児になる前に、もっと何も苦しみを感じないうちから、胚の段階で着床前診断を行う技術も世界では実行されているのですが、日本ではダウン症候群の患者会を含む諸団体からの抗議などがあるようで、実施範囲が広がらず、世界との格差がどんどん大きくなってきています。お金持ちだけが、海外で男女産み分けという理由のために、着床前診断を受けるのが当たり前になってきているのです。その一方で、日本の遺伝性疾患の患者は非常に重い症状でなければ着床前診断を受けられず、健康な子孫を残すことは事実上禁止されます。着床前診断を受けられれば健康な子孫が残せる遺伝性疾患の中にはダウン症候群も含まれています。ただ、男女差と個人差があります。他の遺伝性疾患の特徴と同じで男子の方が症状が重いです

 私達が患うことの苦しみを知っているからこそ、新しく生まれる生命が苦しむのを減らしたい、それが人間性というもので、進化したことの証明なのではないのでしょうか?

 ある意味、NIPTに全面的に反対することは、さらに少数の弱者に対して、10倍返ししているのに近いのです。なぜなら18トリソミーも13トリソミーも、流産を乗り越えて生まれたうちの大多数が、ダウン症候群の平均寿命の10分の1の期間も生きられないのですから。

 しかしながら、たとえNIPTに理解を示したとしても、大して社会の方が患者達に報いてくれないのも事実なのです。

 NIPTでダウン症候群の患児がとても少なくなる分、いずれダウン症患者全体の助成金額に余裕ができるはずなので、その余裕がどこかでうやむやになっていくのではなく、5割以上ぐらいNIPT対象疾患の患者への助成を厚くするために回すような仕組みが作れれば、既存の患者にとっても新しい生命にとっても理想的なのでしょうが、どこかにそういう政策を研究している医療経済学者さんはおられないでしょうか? 社会にとっても遺伝性疾患の患者にとっても、なるべくフェアな基準とは、どの辺りにあるのか、おそらく何らかの目安をどなたかが学術文献として持っていたりするのではないでしょうか。私が5割以上ぐらいと書いてみても、それは単なる思いつきで、大した根拠はありません。そういう根拠の無い話が通るはずもなく、かといって、他国の例も見つけられません。

 もしかしたらNIPTが将来的に遺伝病全体を含むであろうことに、一時的に猛反対した方が、そういう学者さんを見つけやすくなるように思います。18トリソミーと13トリソミーを巻き込む意図がなく、ダウン症候群についてのみ主張することを表明した上であれば、一時的にはかなり強く主張をしても問題はないはずです。最終的に妊婦が決めるという形は取っていても、学歴優秀で知識のある医師や遺伝カウンセラーから伝えられる検査結果の説明を一般人は鵜呑みにするしかないわけですから、実質的にNIPTが「次世代の国民の間引き」を決めています。だからNIPTの対象疾患として、遺伝性疾患のどこまでを含めるのか「国民投票」をして決めよう、そういう運動をしないといけないの・・・かもしれません。まだ私もあれこれ迷いながら情報収集していますが。

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