2019年10月30日水曜日

新型出生前診断と着床前診断 - 技術的に◯、倫理的に☓

pubooが本年11月末日で閉鎖されることを知ったので、アマゾンのUNdiagnosedに掲載していおらず、pubooにしか残っていないページをこちらのブログに移動することにいたしましたm(__)m

 次の節から、新型出生前診断(NIPT)と着床前診断(PGD)について、DNA検査の観点から入ってかなり深くまで述べることになる。私自身が確定診断を得るためにシーケンシング結果を公表するという倫理的争点なので、もともと倫理の問題に本著は立ち入りやすく、次世代シーケンシングという同じ技術を用いているNIPTについても、当初予想していた以上に深入りすることになってしまった。本節では、最初に誤解なきよう、私が技術的にはNIPTやPGDに賛同しながら、倫理的には一時的に大反対すべきだと考える理由を述べる。

 最初に、本章は、全体として、これまでのDNA検査の章、感染症の章、進化の章といった章よりも、まとめるのが困難になっていることを認めたい。現在もまだ模索中の部分が多い。

 現状として、NIPTおよびPGDこそが、遺伝病および染色体異常の根本治療戦略であり、既存の患者を治療することはできないが、新しく生まれてくる生命を我々が味わっているような苦しみから開放することができる、唯一にして最大の手段である。ただしNIPTの方には中絶によるアッシャーマン症候群、PGDの方には1990年から始まったために生まれた子に成人病といった人生の後期に発症する疾患の罹患率が高いかどうか、未検証の部分がある。問題なのは、NIPTもPGDも日本では倫理的問題をかかえ、互いに倫理面で整合性がない。NIPTが学会基準により認可されるならPGDもまた透明性の高い基準で認可されるべきだし、その逆であれば、理想的には、どちらも法により禁止すべきである。現状は倫理よりもNIPTが採血で済むという効率性が前面に出たきわめて不公平な状態が発生している。もちろん国内で実施しないだけでなく、海外で受けた者、海外へ卵子や受精卵を送って受けた者に対する罰則も含めてである。犯歴さえ残れば効果的と考えられるので軽度の罰則で十分と考えられる。しかし、あくまで「理想的には」である。

 ダウン症候群の患児、患者の多さ、ひいては患者会としての活動力の強さが、NIPTとPGDの導入に暗い影を落としている。本著でNIPTとPGDが「間引き」であることを倫理的には強調するものだが、欧米でNIPTやPGDの技術が検証され完成されるにつれて日本との差が広がりつつあり、PGDの規制が結果的には、お金さえあれば国外でPGDを受けて健康な子を男女産み分けして産めると考える人口を、不妊治療に絡んで増やしている。長期的にはNIPTにもPGDにも反対し続けることは不可能であり、私はNIPTやPGDに対して一時的に大反対をして、NIPTやPGDによりダウン症候群の患児の出生が減ることで行政の支出が抑制される分を5割以上程度、ダウン症候群の患者か患者会に還元するように要求する方が現実的であろうと提案する。その大反対の際には、NIPTが将来的には全ての遺伝性疾患の間引きを対象とするであろうと技術予測ができるので、他の遺伝性疾患の患者会にとっても対象となるのは時間の問題であり、ダウン症候群と同じ立場なのだと訴えていくことを提案する。ただし、NIPTに全面的に反対すると、8~9割が1歳の誕生日を待たずに天に召される18トリソミーと13トリソミーの患児がNIPTへの反対運動により発生してしまうので、あくまで18と13トリソミーについては、NIPTに反対はしない、21トリソミーについてのみ反対している、18と13のNIPTを21のNIPTとセットにしているのは、行政と医師の都合であり、あくまで21トリソミーのNIPTについてのみ反対する姿勢を明確にしたほうがいいであろうと思われる。

 他の遺伝性疾患が一般に寝たきりになるのに対して、ダウン症候群は逆に元気になるという非常に特殊な存在である。私は自分の調べてきた様々な病気とダウン症候群を比較してある一つの仮説を建てた。ダウン症候群はヒトへの進化の途上に存在した染色体増加現象の主役ではないかという仮説である。つまりヒトとチンパンジーの共通祖先は、その前の種のダウン症候群みたいなお父さんとお母さんが産み、育てたのであろう主張して・・・みている。これがどのぐらい当たっているかは分からないが、調べてみるとカール・ユングを始めとして染色体が46本から48本へと増えることがヒトの進化であると考える学者は存在する。その中間である47本たるダウン症候群は、寝たきりではなく元気になる、生殖能力は特に男子では健常者より少ないが、それを補うかのように性欲が強い、つまり頻度で子孫を残そうとしているかのように思える。心臓といった臓器の問題さえなければ、自然環境では知能が低いのは現在ほど大きな問題ではなく、子供を産んで育てたのではないかと思われる。現在のように80年も生きることはなかったので、お父さんお母さんとしての役割を終えたら死んだところで、子を残したことが唯一で最大の成果だった時代の話である。心臓の問題もそれほど大きくはなかったのかもしれない。

 また、ダウン症候群を通じて46本から47本へ、47本から48本へと二段階で染色体を1対増やそうとすると、両方の場合で、半分異なる進化した姿の種を、産んで、育てるという行為が必要になる。私はこれが、ヒトの幅の広すぎる愛情の起源なのではないかと思う。なお、チンパンジーとヒトの共通祖先は48本で、ヒトに進化するときに2対が1対へと継ぎ足されて46本に戻った。本数は減ったが長さとしては増えている。愛情というのは、進化的には自分の子供に対してのみ発揮された方が生存のためには有利であるはずなのに、ヒトは他人の子にも愛情を覚え、さらにはイヌやネコといった異種までにも執着する。これは生存のためにはマイナスにしかならない。特に、子供が変なトカゲや蛇や小動物に興味をもって何となくかわいいと思って近づいた結果、噛まれて感染症や毒で死亡するといったことは自然環境では頻繁に起こったはずで、異種に対する愛情というのは進化的には害以外の何物でもない。長年、私の中でヒトの不必要に幅の広すぎる愛が謎だったのだが、半分進化して姿が変わった存在であるダウン症候群を愛さなければ生き残れなかったとすれば、説明可能である。つまり、我々はダウン症候群のことをかわいいと思うように言ってみればプログラムされていることになる。多少目の配置とかが違っても、それをかわいいと感じるように我々はできているのだろう。さらにダウン症候群のお父さん、お母さんも、半分異種である共通祖先を愛したから今日の我々が存在すると考えられる。二段階で異種への愛が試されたのではないだろうか。そう考えるとヨーロッパ人から見てダウン症候群の患児がアジア人のように見えたので、かつてモンゴロイドと呼ばれたという事実と、[外国人ハーフによる小進化...]の節で述べているヨーロッパ人に近い人種のお父さん、お母さんからアジア人の姿の子が生まれた、そして可愛いから他の子よりがんばって育てたのが今日のアジア人なので、アジア人はより子供ぽくて親の愛を得やすい姿になったのだ、という仮説の間で、偶然ヨーロッパ人のダウン症候群の患児と我々アジア人が似たと考えるよりは、必然的に似たとも考えることができる。

 また、高齢妊娠・高齢男性授精をするという状況は、自然環境においては男女が巡りあうのに40歳近くまでかかったということになり、種の集団の個体の数が激減して、絶滅寸前の状態である。この状況でダウン症候群が高頻度で生まれてくるのは、絶滅寸前であることに対応して、進化を促進しようとしようとする作用が働いているのではないだろうか。こう考えると、単一遺伝子疾患と同じく、ダウン症候群が進化の犠牲者、必要悪である可能性は非常に高く、・・・もしも染色体としての進化を促進する存在であると、他の動物の似た例か何かが発見されて学術的に証明されたなら必要悪ではなく、まさに必要ということになるのだが。ともかく、進化の犠牲者ならば、進化の頂点として健康な生活を謳歌しているヒトの健常者の方々が、NIPTの対象として最初に指定されてしまったダウン症候群への助成の増額を認めてくれてもいいのではないだろうか。もちろん、最終的には他の遺伝性疾患もそうなった方がいいという思惑はあるが、ダウン症候群で無理なら他の遺伝性疾患でも無理であろう。

 ダウン症候群が染色体の進化の主役と考えると、ダウン症候群に罹患すると逆に元気になるという他の病気ではありえない特徴が説明可能である。過去において染色体が増える途中で、強くなければ次の種へと生命を繋ぐために生き残れなかったからだ。そうして元気という特徴をもってしまった結果、ご両親がご高齢になり病気になった際に、患者会が人を雇ってダウン症候群のお子さんのところに派遣するぐらいの費用は今後ますます必要になると思われる。これまではダウン症候群の患者のご両親同士で助けあって乗り切った部分が、若いダウン症候群の患者がNIPTにより増えなくなることで問題が深刻となるので、NIPTにより新しいダウン症候群の患児が増えないことによる行政の予算の抑制分を、全部ではなくとも半分ぐらいはダウン症候群の患者会が得るのは論理として通用すると思うのだ。行政と医師は新しい生命をダウン症候群から守るという倫理に基いてNIPTを導入し、倫理に基いていたからなし崩し的に導入が進んだのであって、ダウン症候群に対する行政の支出を抑制するためだとは一言も言っていない。ならば、結果的に行政の支出が抑制される分を、ダウン症候群の患者会の弱体化を補うために使うのは、問題がないはずということになる。そうならないならば、やはり「次世代の日本国民の間引き」であるNIPTとPGDは、どちらも国民投票により対象疾患として18、13トリソミーだけでなくダウン症候群を含むべきかどうか決めるべきであろう。

 この目的のために、多少は現在のNIPTの問題点を突くことが必要で、口にせずとも疑問に思っていることを取り上げた方がいいと思われる。現在日本ではNIPTとして一社独占の形で性能が悪くて値段が高いシーケノム社のNIPTが採用されている。しかしこの会社は、2009年に大きな不祥事を起こしている。どうやらNIPTの治験成績を改ざんしたようである。こういった不祥事を起こしてまだ5年も経たずに復活して来るようなDNA検査会社は日本のNIPTコンソーシアムなどを通じて、医師にしかるべき何かを配っているのではないかと疑う方が自然であろう。もしも3D超音波装置などという金額はかかるが患者の利益にもなると思われる装置を配っていると、多少、どうすればいいか分からなくなるが。ともかく、不祥事から5年で完全復活して日本に1社独占で販売できてしまっているのは、何かを配っているのは間違いないであろう。

 技術的には長期的に考えてNIPTやPGDを支持・擁護し、倫理的には一時的に大反対をするという、私の立場は複雑だが、このようにして説明するための努力は行っているので、どうかご理解いただけると幸いである。

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