2019年10月30日水曜日

着床前診断の潜在的なリスク - 子と女性へのリスク

pubooからの転載です。

 当初、この節では、着床前診断(PGD)の潜在的なリスクについて、PGDに批判的な内容を記していたが、[男女産み分け...]の節と同様に、[仮説の更なる展開...]の節で記した理由で遺伝性疾患の大多数で男子が女子よりも重度になるのが進化的に当たり前と思え、日本の夫婦の多くが希望すると言われている女子への産み分けによって多少なりとも遺伝性疾患のリスクが回避できるという事実が存在してしまっているので、どうしてもPGDおよび男女産み分けに肯定的にならざるを得ない。そういった男女産み分けの土台の部分で複雑さがあるため、現在の段階では、あまり詳しく調べても曖昧さが増すばかりなので、当初の節より小さくまとめ直すこととなった。

"Bust a Myth about PGD/PGS" Fertility Authority, 2014年10月7日閲覧 より

"The good news is that embryos damaged by PGD appear to experience an "all or none" effect — they stop growing, rather than sustain long-term damage," she says.
「不幸中の幸いと言えるのは、PGDにより傷ついた胚は、『全か無か』(ゼロか百か)で影響が表れることです - 長期にわたるダメージを受ける前に、それらは成長を止めるのです」とのことです。
Embryos that continue to grow after the biopsy do not become abnormal as a result of the biopsy and are not at greater risk for miscarriage or birth defects.
生検の後も成長を続ける胚は、生検の結果としては異常となることなく、流産や先天異常を引き起こすリスクがより大きくなることはありません。

PGDでは8分割ぐらいしかしていない胚から、8分の1を切除するので、言ってみれば、胚の大きさをヒトの体で考えたなら、手足をもぎ取られるぐらいの侵襲を受けることになる。この結果、他の7細胞に大きな傷を付けてしまうと、その胚はあっさり死んでしまう。だから傷がついた胚は排除されて患児として生まれないと言われているが、男性不妊や父性年齢効果で精子だった時の影響が自閉症や統合失調症などの形で及ぶことが統計として出てくると、やはり精子を含んで生じる胚にほんの僅かであれ傷がついたら、子が成人してからその後遺症に悩まされることは起こりうる。なにしろ、1990年に最初のPGDのあかちゃんが生まれて、まだ24歳なのである。人生の後期に患う疾患、特にアルツハイマー病について評価されるのは、ずっと時間がかかるということになり、その点に着目した学術文献がある。

引用元 32(2014年12月9日)

The mice generated after blastomere biopsy showed weight increase and some memory decline compared with the control group. Further protein expression profiles in adult brains were analyzed by a proteomics approach.
割球生検の後に生まれたマウスは、コントロール群と比較して、体重増加およびいくらか記憶力低下を示した。更に、成体の脳におけるタンパク質発現プロファイルが、プロテオミクスのアプローチにより分析された。
A total of 36 proteins were identified with significant differences between the biopsied and control groups, and the alterations in expression of most of these proteins have been associated with neurodegenerative diseases.
全部で36種類のタンパク質について、生検を受けた群とコントロール群で有意な差異が認められ、これらのタンパク質の多くで発現の変化が神経変性疾患に関連付けられてきた。
Furthermore hypomyelination of the nerve fibers was observed in the brains of mice in the biopsied group.
更には、生検を受けた群のマウスの脳において、神経線維のミエリン形成不全が観測された。
This study suggested that the nervous system may be sensitive to blastomere biopsy procedures and indicated an increased relative risk of neurodegenerative disorders in the offspring generated following blastomere biopsy.
この研究は、神経系が割球生検の手順に敏感である可能性があることを示し、割球生検に続いて発生した子孫において神経変性疾患の相対的なリスクが増加したことを示した。
Thus, more studies should be performed to address the possible adverse effects of blastomere biopsy on the development of offspring, and the overall safety of PGD technology should be more rigorously assessed.
それゆえ、子孫の発達についての割球生検の有害作用を同定するため、より多くの研究が行われるべきであり、PGD技術の全体的な安全性をより精力的に評価すべきである。

この実験結果を読む限りは、マウスでPGDに似た実験を行うと、アルツハイマー病のリスクが高まるという結果になっている。この研究が中国の研究グループによって行われているのは皮肉で、まだ日本ほどアルツハイマー病が大問題になるほど高齢化が進んでいるとは思われないし、また、PGDというドラスティックな手段で特に不妊治療に関係して新しい生命を守らないといけないほど、子どもが少なくて困っている国でもない。日本の方がこういった研究の需要は高いはずで、ぜひ、日本でもこういった研究を行ったいただけたらありがたいと思う。もしもこの文献の実験結果が再現してしまうのであれば、とてもややこしい話になって、PGDなどとんでもないということになる。

 ここまではPGDによる子へのリスクについて述べたが、不妊治療ひいてはPGDによる母体へのリスクも存在する。

 男女の生物学的な役割の違いから、女性の方が責任と劣等感を感じて不妊治療に拘っている場合が多いと考えられる。不妊治療を行ううちに、35歳に達して、リスク的に限界と考えられる40歳に達するまでの5年間に、不妊治療として潜在的な遺伝性疾患の可能性を排除するため、海外でのPGDに手を出すのであれば、ここまで調べてきて分かるように、やはり相当に下調べをして慎重を期さないと逆に子や女性にとってリスクが高くなってしまう可能性がある。例えば排卵誘発剤の注射でアナフィラキシーを起こした場合は、抗体を通じて次の不妊治療のリスクへと反映されると考えられるため、アナフィラキシーを起こした薬剤の種類を教えてもらえないだけでも、後日におけるリスクとなってしまう。特に米国と違って英語で医師とやりとりができる保証がないアジアで安く受けるという選択肢は、安全を考える限り、アジアの安価なPGDを受けた者からのクレームやインシデントの件数が分かるまでありえないのではないだろうか。

 不妊治療は、真面目に妊娠しようとすればするほど、40歳という実際上の期限に向かって、35歳から苛烈に進んでしまうことが多いはずで、ある意味、希少疾患の診断と似ている。希少疾患の診断は歩いて自分一人で大学病院に通院できるのが診断の限界で、老化や症状の進行によって体力が衰え、通院中に事故を起こしたときが引き際である。私の場合はすでに通院中に自動車事故を起こしているので、半分引いた状態である。半分というのはまだ電車通院はギリギリできるので、DNA検査を自宅で受けて疑わしい変異を絞ってからいずれ通院することにして、今に至る。しかし、これはもしかしたら子に渡してしまった可能性がある病的変異を同定しようとして行っているのであって、子を直接的に危険にさらしているわけではないから、そこまでギリギリでも何とかなるのである。しかし女性が不妊治療を追求する場合は、自らが障害を負ってしまったら、将来妊娠する子にとってもマイナスにしかならない。不妊治療中にアナフィラキシーを起こしたりすれば、妊娠中に何か起こっても投与できる薬剤を制限してしまうだろう。女性が苛烈な不妊治療によって広い意味での障害を負い、その障害がさらに妊娠を困難にする可能性まで考えると、自然となぜそこまでの行為を男性側が止めないだと発想にいきつく。これは、もちろん、男性が女性を止めるべきなのである。本当にその女性のことを愛しているのならば。

 結局のところ、男性が女性を守るという役割が不妊治療において発揮されていないことが、日本の不妊治療を苛烈なものにしているのではないだろうか。私もここまで調べるまで、こういった観点から自らが妻の安全を考えて来なかったことに気付いた。何となくこのまま進むとまずいとは思っていても、不妊治療をやめようと言うと女性が怒り出すので、結果的に身を任せているナヨナヨした男性が日本で多いことが、おそらく問題の背景にある。日本では男子よりも女子を多く望んで男女産み分けをしようとしているということは、跡取りとして男子が欲しいという男性的な発想では考えられておらず、妊娠の行為の主体が女性で、もともと不妊治療は女性の意見の方が強く出る傾向があるのだろう。PGDをアジアで安価に受けるなどと、そこまで女性が自らの健康を犠牲にしてまで、と思える苛烈な発想が実行に移されてしまうのは、こういったことが背景にあるのではないだろうか。

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