念を入れての繰り返しになるが、私はNIPTを技術的には支持・擁護するが、DNA検査としての技術面から調べれば調べるほど、NIPTが将来的に遺伝性疾患全体を対象とするであろうと技術予測ができるため、倫理的には、遺伝性疾患全体で一度は大反対をした方がいいと考える。本節は、特に技術面について述べるので、NIPTについて、特に賛同的な内容を含む。
NIPTにはエクソームシーケンシングや全ゲノムシーケンシングと同様に、次世代シーケンシングの技術が応用されている。多少まんが的に図として示すように、母親の血液中に混じっている胎児のDNAを、次世代シーケンシングで染色体を区別して測定して、母親のDNAとの比率を求めて、胎児の特定の染色体の数を推定する。詳しく描いても理解不足がばれるだけなので、胎盤で血液が混じらずにDNAだけが混じる仕組みなどは描かずに、多少単純化したのはお目こぼし願いたい。2014年9月現在、日本で理由はよく分からないが1社独占の形で行なわれているが、世界的には、Sequenom社MaterniT21 PLUS†の他に、Natera社Panorama†、Ariosa社harmony†、Illumina社(またはVerinata社)verifi†、BGI Health社NIFTY†、Berry Genomics社BambniTest†、LifeCodexx社PrenaTest†と、7社7製品ほどあるようだ。多くは略図として示した理解で合っていると思う。2012年の世界市場シェア†はMaterniT21 PLUS、NIFTY、harmony、verify、BambniTestの順だったようだ。精度もずいぶんと違うが価格も3倍以上違う†ようで、最終的には妊婦か、将来的にはできれば保険組合が、支払うことになるので価格競争が望まれる。中でも、Natera社Panoramaは価格が日本で採用されたMaterniT21 PLUSの半分なのに、感度92-99%、Accuracy(特異度?)100%と上回っている。同社のウェブページに掲載されている他社との比較を見ると、どこまで鵜呑みにしていいのか分からないが、驚異的な特異度の高さ†である。この偽陽性率だけに着目した比較が、"Minimal False Negatives"†として示されているが、やはりとても優れている。この理由は、私が描いたまんが的な図と方式が違って、妊婦向けの説明†によると、妊婦の血漿から妊婦と胎児のSNPを、妊婦の白血球から妊婦のSNPを、それぞれ決定して比較するという方式によるようだ。"Published articles that relate to..."†の2番目に示されている文献†によると、このSNPの数は19,488個ということらしい。この方式は、NIPTを遺伝性疾患全体へと拡大するための実証例となると思われる。ではなぜ、この製品が日本で採用されなかったかというと、特許訴訟†が問題ではないかと推測される。2013年8月の時点では、Natera社よりもSequenom社および大もとの発明者のデニス・ローに有利な判決†が出ていたようだ。デニス・ロー†は香港で生まれ米国で学んだ研究者で、2014年9月現在は香港中文大学の教授†をしている。1冊だけだが、日本語翻訳版としてPCR技術についての教科書*も出しているようだ。香港の人たちからWikipedia上で歓迎されているよう†で、日本での山中伸弥のような存在になりつつあるのかもしれない。
私が、将来的にNIPTが遺伝性疾患全体へと対象疾患を技術的には拡大すると考えるのは、NIPTの原理を作り上げたデニス・ロー自身を含んで、対象疾患を拡大する方向で研究が進んでいるからである。
Lo, YM Dennis, et al. "Maternal plasma DNA sequencing reveals the genome-wide genetic and mutational profile of the fetus." Science Translational Medicine 2.61 (2010): 61ra91-61ra91.
父親からも採血を行い、母親のものと比較することで胎児の全ゲノムの塩基配列を決定する手法について、具体的に述べられていて、Fig.1に母系と父系の比較の手法がまとめてある。日本語で概要をまとめてくださっているウェブページもある*。Google Scholarによる引用元の数は2014年12月で258である。
デニス・ローの研究グループ以外にも、複数の研究グループで研究が進んでいるが、この258というのは、どうやら飛び抜けた数値である。引用元の数の順に並べてみる。
Kitzman, Jacob O., et al. "Noninvasive whole-genome sequencing of a human fetus." Science translational medicine 4.137 (2012): 137ra76-137ra76.
引用元 151
Fan, H. Christina, et al. "Non-invasive prenatal measurement of the fetal genome." Nature (2012).
引用元 134
Bustamante‐Aragones, A., et al. "Prenatal diagnosis of Huntington disease in maternal plasma: direct and indirect study." European Journal of Neurology 15.12 (2008): 1338-1344.
引用元 38
Norbury, Gail, and Chris J. Norbury. "Non-invasive prenatal diagnosis of single gene disorders: how close are we?." Seminars in Fetal and Neonatal Medicine. Vol. 13. No. 2. WB Saunders, 2008.
引用元 38
Bustamante-Aragonés, Ana, et al. "Non-invasive prenatal diagnosis of single-gene disorders from maternal blood." Gene 504.1 (2012): 144-149.
引用元 14
Hill, Melissa, et al. "Views and preferences for the implementation of non‐invasive prenatal diagnosis for single gene disorders from health professionals in the united kingdom." American Journal of Medical Genetics Part A 161.7 (2013): 1612-1618.
引用元 11
今後も研究が進み、装置としてのシーケンサーの性能も今後もムーアの法則のごとく向上していくので、それに合わせてNIPTの精度は向上し対象疾患も拡大していくと予想される。技術的には。
遺伝性疾患が追加されていく優先順位としては、GeneReviewsの出生前診断の節に基づく基準が知る限り最も詳細で適切と思われる。GeneReviewsには日本語版が存在するが、医療従事者でない者による利用のされ方に敏感なサイトのようなので、リンクを示して歓迎されるとは限らないので、ここでリンクを示すことはしない。検索すればすぐに見つけることができる。
GeneReviewsで述べられている基準で、NIPTに真っ先に追加されると思われるのは、知能に影響を与える遺伝性疾患である。具体的には、逆の場合として「知能に影響を与えない」疾患については、「出生前診断は一般的でない」と述べられている。極端な場合として典型的な無脳症の場合には、ほとんど知能が存在しないので、生後死亡例としてカウントされないことさえあるそうだ。ダウン症候群がNIPTの対象疾患として含まれて実施されているのも、他の一部の疾患ほど深刻でないとは言っても、知能に影響を与えているためと思われる。これらは高学歴の医学部教授達が決めた、知能の高い自分たちの立場を社会的に高めるための主張だと批判することは現段階では可能である。平たく言ってしまうと事実上、ヒトの「間引き」を行うかなり重要な基準であるにも関わらず、投票によって市民権を得たことが一度もないからだ。
2014年12月時点の補足として、もっとも高精度と思われるが日本でNIPTに採用されていないNatera社のDNA検査が、すでに日本で出生前DNA鑑定に利用可能であることが分かった*。おそらくPanoramaと同等の原理と思われる。DNA鑑定に実用的に使えると述べられている限りは、約20000個検査すると述べられているSNPsの多数が、精度よく読めているはずで、実質的に単一遺伝子疾患を検査可能な技術水準に達しつつあるようだ。法律事務所も斡旋しているので、法的にも合法なのを確認済みということになる。気になるのは、既に日本でNatera社の営業拠点のようなものがあるということで、ひょっとしてもう日本のNIPTにNatera社も追加されるのが確定しているのだろうか。
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