2019年10月30日水曜日

不妊治療としてのPGD - 不妊としての遺伝性疾患

pubooからの転載です。

 [不妊という社会問題...]の節で、日本の不妊社会の現状を調べ、[着床前診断の問題点...]の節で、着床前診断(PGD)の手順と、生命倫理として新型出生前診断(NIPT)と大差ないことを調べた。本節では、不妊治療としてのPGDについて調べる。

 [生まれる前のDNA検査...]の節で、トリソミーで23対の染色体にほぼ同じだけ不分離による膨大な人数のトリソミーの患児が存在し、我々は出生した患児だけしか気にしていないと述べた。これが意味するのは、流産や死産の多くが、NIPTが現在対象としている21、18、13トリソミーの重症例だけでなく、他の染色体による更に重度のトリソミーを含んでいるだろうということである。早期に流産すればするほど、また、妊娠したかどうかも気付かないぐらい早い段階のものほど、重度のトリソミーであろうという推測が成り立つ*。このことは、卵子の老化によるとされる不妊率*が、ダウン症候群の母親の年令による頻度*と、同年齢で比較すると似たような比率になっていることからも裏付けられる。つまり、不妊治療というのは、いかにしてトリソミーで流産せずに健康な子を産めるか、その高齢性への挑戦とも言える。必然的に不妊治療は体外受精を含み、最終的には体外受精と組み合わせて日本以外の先進国で実施されているPGDと結び付けられる。
 
 上記は高齢で初めて不妊となったケースだが、高齢でない時点から不妊を患っている場合は、トリソミー以外の遺伝性疾患が関係している可能性がある。[中絶による母体へのダメージ...]の節で、トリソミーと並べて他の染色体異常症や単一遺伝子疾患へと、NIPTが対象疾患を拡大する様子を調べたように、重度のトリソミーで流産するのと同じ理由で、その他の染色体異常症や単一遺伝子疾患の中の生まれることもできないほど重度で、とりあえず着床はできるほど軽度のものが、流産の中に潜在的に含まれていると考えらえる。次の図では、下の方の「患児」の部分が生まれることができた遺伝病患児であり、「着床失敗」から「胚の形成不良」を経て「死産」までの間でフィルターアウトされるのが、遺伝病による不妊であり、遺伝病以外の不妊と区別できないが故にこれまで認識してこなかったが、NIPTのようなDNA検査が発達すれば、この部分が問題になってくるはずだ。

 子宮筋腫子宮内膜症といった、他の婦人科疾患による不妊も多くあるため、結局のところ、不妊治療は高度になればなるほど、不妊の原因が追求される傾向があり、近年になって女性不妊から男性不妊が区別されて、精子の選別と体外受精に頼るようになったように、今後次第に、高齢による単純なトリソミーなのか、他の遺伝性疾患なのかが区別されるようになるものと思われる。そのために欧米で用いている手段が、PGDと言える。

 不妊治療としてPGDを導入するシナリオを具体的に想定してみる。

 不妊治療を、原因を探りながら1年以上続けても、原因が分からないまま妊娠できないと想定する。タイミング法、排卵誘発、人工授精、体外受精、顕微授精と、通常のステップアップは全てやったとする。次は、夫婦に対する染色体検査ということになるが、どのタイミングで実施すべきなのかは確かな記述を見つかることができなかった。不妊治療としてはあまり行うことがないとされているが、その理由の一つが「異常が出ても治療が無い事」というのは、強い違和感を感じる。検査結果が得られれば海外でPGDを受けるか、日本で諦めるか決められるので、原因不明のまま不妊治療を続けるという泥沼から抜け出せるのである。異常が出ても治療が無いからと言って、特定の検査を含まずに不妊治療を続けさせるのは、産婦人科医による打算、あるいは、悪く受け取れば、出せる夫婦から限界まで不妊治療に出費させるという種類のチェリーピッキングではないだろうか。

 実際に、夫婦染色体検査どころか、あるクリニックでは染色体に転座を持つ反復流産患者に対してPGDは有効と言い切っている。反復流産のことを、ウェブページによって習慣性流産、不育症とも呼んでいるようだ。反復流産の原因が、母体の全身性エリテマトーデスや抗リン脂質抗体症候群でない場合が、夫婦染色体検査、および、流産で天に召された胎児の染色体検査を最も必要とする状況のようだ。後者は、最も頻繁には"流産染色体検査"と呼ばれているようで、非常に手間がかかるがそれでも実施されているということは、やはり流産染色体検査ほど手間がかからないと思われる夫婦染色体検査までは行った方がよいと私は思う。こういった段階でも夫婦染色体検査を提案されない場合、遺伝カウンセリングを円滑に行うことができないというクリニックの事情による可能性が高い。染色体検査にも方式の違いがあり、染色体マイクロアレイ、別名比較ゲノムハイブリダイゼーションというのが最新の方法のようだ。これもおそらくクリニックがどの検査機関に送るかによって違うのだろう。

 だんだん状況が稀なケースになってしまうが、夫婦染色体検査または流産染色体検査まで行っても不妊の原因が分からない場合を想定すると、もうとれる選択肢はPGDしかない。

 将来、不妊治療からPGDに向かう過程がどうなっていくか想定してみる。

 夫婦染色体検査で何も問題がなかったと想定する。夫婦が、二人共エクソームシーケンシングや全ゲノムシーケンシングを受けて、病因性不明の変異を二人の同じ遺伝子に見つけ出し、それが胎児で劣性遺伝病を引き起こして流産となるために不妊なのではないかと推測する場合を考えてみる。妊娠するという以外に中間的な目標がなくだらだらイライラしながら支払いだけが増えるよりも、二人の老後設計として夫婦のどちらがどんながん保険に加入するかという検討も合わせて、エクソームシーケンシングをやってしまった方が、今後はコストパフォーマンスの点でよいだろう。

 [ミトコンドリアDNAの検査]で述べたように、シーケンシングによって変異が見つかっても、検証実験が既に行われている場合は少なく、しかし検証実験は患児の形で症例が出ている場合に行われるもので、変異が見つかっただけでは病因性は簡単には証明されない。だから原因不明の不妊で、病因性不明の変異が二人の同じ遺伝子に見つかった場合には、それなりにそれを不妊原因の可能性の一つとして仮定する根拠がある。もちろん、劣性遺伝は25%の確率なので、これまでの不妊の全部が一つの遺伝子のせいだったとは言えないが、すでに夫婦染色体検査まで行って問題がないと分かっているなら、比較の問題として、後は可能性の大きなものにかけるしかない。おそらく、疑わしいものから優先順位をつけて最大3つぐらいの遺伝子による劣性遺伝病を想定して、実質的には上位2つぐらいの遺伝子による劣性遺伝病を、胚の選別で排除できると期待される。2014年12月現在、次世代シーケンシング(NGS)の導入が進み、複数の遺伝子を一度のPGDで同時に検査できる体制が整いつつある**

 国内でPGDを行っていると公表しているのがほんの一部のクリニックだけに限られていると、そちらを持ち上げるわけにはいかないので、不本意な感じがするが、多数が利用している海外の場合を考えてみる。念のため記すが、海外でPGDを受ける場合も公式の基準があまりないという点では国内と変わらない。海外から見れば我々は外国人であり、外国人も対象とした特殊な基準が設定されていたとしても、言語が異なるため我々自身がその内容を直接知ることはできない。我々が知ることができる情報はあくまでエージェントを介してのみである。あくまで想像だが、米国では商業主義で高額ではあっても、比較的医療処置の安全性が保たれているのに対して、タイでは、途上国・中進国の常として、日本では想像できないぐらい病院の設備が異なり、富裕層病院と貧困層病院が別になっている*。特に安価なエージェントの場合、貧困層病院に連れて行かれて、日本よりも遥かに劣る医療処置を受けることになるのではないかと想像する。この前置きをした上で本題に戻ると、海外で体外受精+PGDを行い、劣性遺伝の発症パターンで変異が載っていない胚があれば、胚移植を行い、全てに載っていたなら、遺伝子の優先順位にしたがって選別するか、実子を諦めるかということになる。

 たとえ、実子を諦めることになっても、DNA検査の結果を眺め、自分達の老後設計を進めれば気持ちも前向きになろうというものではないだろうか。DNA検査による成人病の罹患予測確率から、加入すべき医療保険を決め、それらを支払っても余裕があると分かれば、里親および特別養子縁組という選択肢も残っている。しかし、もしも海外で二度目のPGDに挑戦しようとするならば、だんだん年齢が進んでいるはずで、無理があるのではないかと、私は思う。

 おそらく不妊治療の一つの問題は、患者を悩ませないつもりでリスクをリアルに説明しない過保護な医師の態度である。半分は不妊治療の利用を続けさせるための打算だが、もう半分は医師として患者の心を守るという良心から出ているため誰も強くは批判せず、終わりなくズルズルと救いがない状況が続きやすいため、どこかで意図的にピリオドを打たねばならない。前の節でトリソミーについて画像検索へのリンクで具体的に示したように、重度のことが多く、胚の潜在的な死亡原因と思われる染色体異常症や劣性遺伝の遺伝病を避けるために、一度は海外でPGDに手を出すのは、子の健康を望む親の努力として仕方がないと思われるが、その中でも劣性遺伝病の部分は、あくまで夫婦のシーケンシング結果から不妊原因への推測である。まだ日本はそういう状況になっていないが、同じシーケンシング結果に対して、分野が違う複数の医師から意見を聞けるようになれば、別の病名が次々に飛び出すということが起こりえて、最終的には単一遺伝子疾患は必然的に何パーセントかの胎児に起こってくるもので、いくら想定を厚くしたところで、一度のPGDで扱える胚の数が限られている以上、完全に避けるのは無理だということになる。

 不妊治療は、現在の日本で体外受精を何回までがんばるかとされているところが、将来的には一度のPGDでピリオドを打つところへと延長されることになるのではないだろうか。体外受精でピリオドとの大きな違いは、夫婦のシーケンシング結果を一つの成果として肯定的に考えることができるという点で、将来の医療保険と、里親ひいては特別養子縁組を望んでもいいぐらい自分達が本当にこれからも健康なのかどうかを、具体的に検討できる点であろうと思われる。

 また、気持ちとしては、海外で二度までもPGDを受けるようなお金があるのだったら、遺伝性疾患などの障害をもっているので里親のなりてなどいなくて、乳児院に預けられている恵まれない子供達*の支援に使われれば、どんなに助かるだろうかと想像する。

 本節の最後として、補足しておくと、不妊治療に絡むDNA検査として次世代シーケンシングに触れたが、一応23andMeによるDNAアレイの検査でも男性不妊の検査項目"Male Infertility"がある。ただし信頼性が★3つのため、あまりあてにしない方がいいと思われる。罹患予測確率を数値で示していないのは信頼性がそれほどないためと思われる。おそらく女性の方が不妊に関する検査結果の項目が多いのではないかと思うが、受けられないので分からない。以下に私の検査結果の概略を抜き出して示す。3つのSNPsが含まれ、うち3つ目のものは、日本人の研究者による成果のようである。最小限の訳を挿入する。

Non-obstructive azoospermia (very low sperm count)
非閉塞性の無精子症
Marker rs955988
CT Slightly higher odds of low sperm count.
Hu Z et al. (2011) . “A genome-wide association study in Chinese men identifies three risk loci for non-obstructive azoospermia.” Nat Genet.

Non-obstructive azoospermia (very low sperm count)
非閉塞性の無精子症
Marker rs10910078
CC Typical odds of low sperm count.
Hu Z et al. (2011) . “A genome-wide association study in Chinese men identifies three risk loci for non-obstructive azoospermia.” Nat Genet.

Male infertility
男性不妊症
Marker rs35576928
CC Typical odds of male infertility.
Iguchi N et al. (2006) . “An SNP in protamine 1: a possible genetic cause of male infertility?” J Med Genet 43(4):382-4.

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