2015年3月25日水曜日

予期せぬ発見

UNdiagnosed』にまとまりをもたせるために、節の分離作業を行っています。

 エクソームやゲノムのシーケンシングが普及した場合の課題として、予期せぬ病的変異を発見した場合に、それを患者に伝えるかどうかということがある。

 私の場合は、代謝異常症を目的としてエクソームシーケンシングをしたのだが、WFS1という遺伝子にウォルフラム症候群という難病の変異が記されていて驚いた。具体的にはGene-talk.deでVCFファイルを表示すると、以下のように表示されたのである。
chr4
6304118dbSNP ID rs3821945WFS1 GA/A2/5missense    
ウォルフラム症候群は、常染色体劣性遺伝なので、母親由来と父親由来、合わせて2本ある染色体の両方に変異が存在して発症する。GenetypeとしてA/Aと表示されていたので、2本の染色体両方で変異が起こっているように見受けられたため、私は慌ててウォルフラム症候群の症状について調べてみた。もちろん、私の症状と一致しない。よく見ると2/5と表示されているのが、合計7回測定してうち5回の測定で変異を検出し、2回の測定で変異がないのを検出したことを意味するらしい。装置の誤差などを考慮した何らかの基準で2回変異がないのを無視してしまって、劣性遺伝の発症条件を満たさないG/Aが本当のところなのに、誤ってA/Aと表示してしまっているようだ。この場合にはウォルフラム症候群ではなく非症候性難聴という、なんとなく耳の聴こえが悪いという軽い症状の疾患をほのめかしている。実は、私は小中学校の頃から聴力検診で引っかかることが多かった。

 もしも医師がこの結果を知った場合、患者にどう知らせるべきかを考えてみる。時間に余裕がある医師なら知らせるかもしれないが、余裕がなければ知らせないだろう。しかし、もしもその患者が従兄弟と結婚していたとしたらどうだろうか? 彼らの子供がウォルフラム症候群に罹患する可能性は、配偶者にも同じ変異があったとしたら25%である。知らせるべき必要性はぐっと上がるのだが、知らされた患者の側も寝耳に水の話である。遺伝カウンセラーのいない病院では、話がややこしくなるだけだと思って、わざわざ劣性遺伝の病気の可能性について知らせるということはしないだろう。つまり知らせるかどうかの基準は現在のところ存在せず、病院により格差を生じるはずだ。

 シーケンシングによってDNA検査の可能性が広がれば広がるほど、疾患をほのめかす検査結果が出ているにも関わらず、患者にその結果を知らせないということが、これまでよりもずっと増えるということである。患者としては、シーケンシング後に遺伝カウンセラーに依頼して、潜在的な疾患を一度まとまった形で指摘してもらうことができるといいのだが、現状はカウンセリングに要した時間で患者に課金する制度のため、すんなりVCFファイルを取り扱ってもらえるとは思えない。やはり、将来的にはシーケンシングという医療サービスの中にカウンセリングも込みになっているべきものと思える。

 米国では既に一部、患者に知らせる基準の明確化が進んでいるそうである。日経のバイオ分野で活躍されている編集者の宮田満氏が発行されていた、個の医療というメーリングリストの2013年7月24日号で知った。ここでは、「予期せぬ発見」という氏の表現を使わせていただいた。

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