2015年3月5日木曜日

遺伝情報の破壊の科学

UNdianosedにまとまりをもたせるために、節の分離作業を行っています。この節を、こちらに修正しながら転記します。

 遺伝性疾患、つまり希少疾患の約80%に対する唯一の根本治療は、当然ながら遺伝子治療だが、おそらくこれは50年経っても副作用だらけの可能性が高い。DNAの遺伝子を書き換える方法が変異によって様々であり、一歩づつしか進まない割に、書き換えのためにベクターとしてウイルスを用いるため、ウイルスによる副作用、またはウイルスを全身に行き渡らせるための薬剤による副作用、また全身に行き渡るような感染力の強いウイルスを用いた場合のウイルスを最後に排除するための薬剤の副作用と、改良を続けていっても新しく別の副作用を生じることが予想される。多いとみるべきかどうか分からないが、2014年現在までに患者が2人死亡している。部位特異的な書き換えやすい変異の場合は成功するであろう。たとえば筋ジストロフィーについて、特定の骨格筋のみにおいて成功する、あるいは、先天性代謝異常症について、肝臓のみにおいて成功する、そういった種類のものである。しかし、iPS細胞による再生医療が盛り上がっている昨今では、特に肝臓については臓器移植が困難な臓器であるわりに代謝性疾患の中心であるため、様々な疾患で肝臓の再生医療への投資価値があり、約20~30年でいっきに再生医療が進んで、約50年後の遺伝子治療の出番はなくなる可能性さえある。

 おそらく遺伝子治療は、「遺伝情報の破壊の科学」へと移行する可能性が高い。つまり書き換えができずとも、破壊することならそれほど困難ではないと予想できる。がんの場合がそうで、これはがんというDNAに特定の配列をもったヒトの細胞を特異的に破壊することが一つの治療戦略である。特定の配列そのものを制限酵素といったもので切断するのか、配列を認識する仕組みから細胞を死滅させる仕組みへと連絡して、細胞そのものを死滅させるか、どちらかで成功すればがんに対する人類側の強力な武器になる。ただし死滅させるなら一気にやらないとまた違う変異を起こすためその点は難しい。また、ミトコンドリア病についても、ヘテロプラスミーとして特定の変異が存在するような種類のミトコンドリア病の場合、そういった特定の配列を有するmtDNAのみを制限酵素で切断すれば症状が軽くなることが期待され、一部で実際に試みられている。こちらはミトコンドリア内なので到達するのが大変かもしれないが、がんほどの生死に関わる影響はなく、非進行性の場合は特に試みやすい対象と思われる。そしてこれは想像なのだが、ダウン症候群についても21番染色体のトリソミーを形成する、どれか一本の染色体を破壊すれば症状が軽くなると期待される症例が存在するはずである。何パーセントぐらいなのかは、まだ詳細を検討できず分からない。いずれにしても、がん、ミトコンドリア病、ダウン症候群の3者に共通の特徴とは、特定の塩基配列をもつDNA、またはその入れ物である染色体や核や細胞を破壊すれば、症状が軽くなるであろうと期待される点である。この3つに共通の治療戦略を「遺伝情報の破壊の科学」と呼ぶことにしている。

 しかし、ここで「破壊」というやや暗いイメージの用語が示唆するように、まったく同じ技術がエスニックウェポンやパーソナルゲノムウェポンへと転用可能であるという、社会的に問題と考えられる部分があり、おそらく長い目でみれば研究の進展を律速することになる。この点をうまくクリアするために何らかの米国といった国々との合意が早い段階から必要なのかもしれない。

 技術的な予測としては、おそらくナノ磁気ビーズに制限酵素を結びつけたようなものが利用できると思われる。目的が破壊であるために、あまりきれいな形ではないが、制限酵素で切断できずとも、ハイブリダイゼーションさえできてナノ磁気ビーズに外部からの振動磁場により運動エネルギーを与えれば、あるいは加熱すれば、その染色体か細胞の単位で死滅できる可能性がある。NMRほど高周波ではない低い周波数の磁気変動を発生させるような装置、もしかしたらMRIの装置そのものがうまくすれば利用可能かもしれない。ナノメーターのオーダーの大きさのものは存在はするが何かに応用されているかどうかは分からない。しかし、マイクロメーターの単位の磁気ビーズはすでに次世代シーケンシングで頻繁に用いられている技術であるため、それなりに成熟した技術である。

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