2015年3月23日月曜日

コエンザイムQ10とミトコンドリア測定器

UNdiagnosed』にまとまりをもたせるために、節の分離作業を行っています。

 [ミトコンドリアDNAの検査]の節で、ミトコンドリアに関係する健康食品のブームが起きているが、何をどのぐらい食べたら、どのぐらい代謝能が上がったのか示す測定器の開発が軽視されているのが、問題の中核にあると述べた。コエンザイムQ10も大多数にとって効果がないとわかったため飽きられて、世代交代的に他の健康食品に置き換えられつつあるが、健康食品ブームはコエンザイムQ10をきっかけとして盛り上がった状態で継続されてしまっているため、効いたかどうかを調べる測定器開発が軽視されている状況はより一層ひどくなりつつあるようだ。

 健康食品に投資を行うよりも、少しでも安価な測定器を先行して開発した方が、ミトコンドリア病患者の体力管理にも貢献するし、お金も儲かるので遥かによかったはずなのだが、一旦、測定器抜きのまま健康食品の方でブームに火が付けられてしまったので、ほんの一部の人にしか健康食品の効果が出ないことが証明されて集団訴訟が起こされるまで止まることはないだろう。厚生労働省のサイトでコエンザイムQ10について検索した結果、現在97件表示される。国民生活センターの方はサイトの構造上検索結果へのリンクを示せないが13件であった。全部の検索結果でコエンザイムQ10が社会現象的に問題になっているというわけではなく、単にミトコンドリア病にコエンザイムQ10が関係しているといった結果も含まれている。

 ただ、コエンザイムQ10の場合は、よく学術文献で調べられているため、他の健康食品よりとても情報が多い。学術文献を参照しながら、一般向けに最も分かりやすく書かれていたのは、探した限りでは次のウェブページであった。

("コエンザイムQ10について", 国立健康・栄養研究所より)

コエンザイムQ10は過去に医薬品として用いられていたことから、健康食品にも医薬品と同じような安全性 (有効性) が期待されている面があります。しかし、同じ成分を含んでいても、健康食品では、商品の品質 (不純物混入の有無) 、商品中の表示成分含量の真偽、摂取したときの体内吸収等の特性は、医薬品と同等ではありません。そのため、“医薬品として利用されている"という言葉のみで、“コエンザイムQ10を含む健康食品の情報"を医薬品と同等に判断することはできません。
(略)
一方、食品として流通している商品は、通常は品質を確保する規格がない場合が多く、含まれる成分の含量や純度は全ての製品で必ずしも一定というわけではありません。
(略)
実際に、コエンザイムQ10の配合を謳っているにもかかわらず全くコエンザイムQ10が検出されず、違法に別の医薬品成分を添加していた事例 (5) がありました。
(略)
コエンザイムQ10は一般的に高用量でも副作用が出にくく、かなり安全性が高いと考えられています。しかし、利用方法や利用対象者によっては絶対安全とはいえません。
(略)
特に疾病治療中の人は自己判断で安易に利用せず、医師等の専門家に相談して利用することが重要です。
(略)
上記のような理由から、米国心臓学会/米国心臓協会ではコエンザイムQ10の治療目的での摂取について「心不全の治療には更に多くの科学的根拠が蓄積するまで推奨できない」 (7) 「慢性安定狭心症の治療には有益および有効ではない」 (8) と位置づけています。
(略)
また、俗に謳われている肥満解消や美容に関する無作為化比較試験は見つかりませんでした。
(略)
既に疾病を持つ方が治療目的で健康食品を摂取されることは、望ましいことではありません。健康食品はあくまでも日常の食事の補助的なものであり、病気の治療に用いるものではありません。病気の時は医薬品を用いた治療が基本です。また利用するとしても医療従事者のアドバイスを受けて利用することが必要です。
(略)
たとえば、科学的な根拠のある治療を行っている条件で、「科学的根拠の不明確な健康食品」を同時に利用することは、治療にどのような影響を及ぼすか予測できず、メリットよりもデメリットの方が高くなるかもしれません。
(略)
最も注意しなければならないことは、コエンザイムQ10が血圧や血糖値を低下させるという情報を鵜呑みにしたり、「食品は安全で、医薬品は副作用があるから」などの考えによって、自己判断で医療機関から処方されている治療薬の服用を止めてしまうことです。
(略)
コエンザイムQ10は一般的に高用量でも副作用が出にくく、かなり安全性が高いと考えられています。
(略)
日本では、医薬品として使用する場合のコエンザイムQ10の上限量は1日に30 mgです。一方、食品として流通している海外メーカーコエンザイムQ10製品のその含有量はこの医薬品上限量を遙かに超えており、日本の健康食品でも医薬品として用いられる量を超えた製品が流通しはじめています (9) 。

たくさん引用してしまったが、国立の研究所で「無断転載を禁じます」の注釈はないので、許していただけると思う。これだけコエンザイムQ10に皆が踊らされてしまった中で、ここまで丁寧にまとめていただいる文章は、とても貴重である。

 結局のところ、健康食品を食べて、ほんの少しでも気になったら、診てもらっている主治医に相談するというのが、本著では医師を批判することがどうしても多くなってしまうので多少矛盾するようだが、最も賢い選択なのだろう。DNA検査が普及するとテイラーメイド医療に近づいていくので、もっとこの傾向が強くなるはずだ。

 しかし、実際のところは、診断もままならない私のような患者が相談できる医師というのは、東京だと違うのかもしれないが、この地域に限っては、まず存在しない。結局、先に受けられる検査を増やして、陽性値どうしを突き合わせて、DNA検査をうけて解釈し、診断を得ないと主治医に相談するどころではない。しかし、同時に健康でないと思っているからこそ、藁をも掴む気持ちで、健康食品に手を出してしまうのだ。健康食品を大量に摂取するお年寄りの気持ちは、たぶん、私は同じ40歳代の方々よりも、ずっとよく分かる気がする。私も脂肪酸代謝異常症に有効な場合があるリボフラビンを試していたことがある。効果がなかったため、すぐにあきらめることになった。

 ミトコンドリア系健康食品の集団訴訟が起こったとしても、きっと参加するのは、弁護士費用を捻出できるちょっとしたお金持ちの方々ばかりなのだろう。ブームに火を付けるのに利用されてしまった研究者の先生方も、途中でこのままでは基準を作らないとマズイと気が付いた瞬間があったと思うのだが、あれよあれよという間に機会を逃し、もう自分達も巻き込まれただけという顔をするしかない状態となってしまった。いや、本当に利用されてしまっただけなのだろうか? 実は特許を調べると先生方の手元にお金が入っている気がするのは私だけだろうか?

 コエンザイムQ10の問題をうまく解決できる、ミトコンドリア機能評価測定器があるのではないかと、かなり調べてみたのだが、結論から言うと、うまくいかなかった。mtDNA検査にも、良い点と悪い点があるのを実際に受けて実感しているので、相補的に機能する他の検査を探したつもりだったが、どうも検査に必要な手順が多いことと、日本の薬事法を通過する見込みの測定器が現在存在しないことから、ミトコンドリア機能評価測定器は、まだ患者が意図して検査を受けられるものにはならないようだ。実はミトコンドリア機能評価の結果を学生が発表したPDFを真っ先に読んでしまったので、結構簡単な生検でいけるのかと思っていたら、そうでもないらしい。しかし、mtDNA検査の結果と、ミトコンドリア機能評価の結果を突き合わせる研究は大学等で今後も行われていくはずなので、将来的にはDNA検査の結果に、ミトコンドリア機能評価の成果が反映されて、DNA検査の結果シートがより詳しくなっていくのだろう。その方がどこを生検するか痛い検討をするよりも、唾液といった無侵襲で受けられるのだから。

 一応、ミトコンドリア機能評価装置について、分かった範囲でまとめておきたい。2014年12月に日本で輸入発売される新型はとても美しいデザインだ。価格は問い合わせても、先述のコエンザイムQ10批判にひいてしまったのか教えていただけなかった。古いモデルは1000万円近かったようだが、この新しいモデルはそれよりは安くなるという話である。タンデムマス検査は小児医療の予算が小さいのにプロジェクトとしては大成功して、予算が大きなはずの有権者成人層の医療で測定器が普及しないことに矛盾を感じるが、薬事法を通らないと言われてしまうと、確かにそうかもしれないと思う。大学の研究室にとってはこの機種以外にもOROBOROS O2kとか、Mito-IDという選択肢もあるようだ。理想を言えば、コエンザイムQ10が本当に有効だろうが無効だろうが、ミトコンドリア機能評価の検査が簡便化され、コエンザイムQ10の効果があるという検査結果が出た人口だけが摂取すれば、テイラーメイド医療の国家戦略というか医療施策としても、とてもよい方向にものごとは進んだだろうと思う。コエンザイムQ10の問題は(もし効能が本当だとすれば)老化と遺伝の2要素による個人差が大きな割に、摂取した人の主観的印象でしかミトコンドリア機能の評価ができないことにある。診断されていなかったミトコンドリア病患者が、2001年に報じられた有名な「北陵クリニック事件」(当初の報道では「仙台筋弛緩剤事件」と呼ばれた)にからんで、筋弛緩剤の投与で死亡しかける医療過誤が起こったのも、もしも機能評価の検査が簡便化されているか、mtDNAの検査方法が知られているか、どちらかであれば避けられたはずで、問題の根は同じであろうと思われる。なお、このミトコンドリア病患者は、詳しい状況は分からないが、現在も適切な治療を受けられていないようだ。ミトコンドリア病のうち、この患者と同じタイプを、ダーウィンも患っていたという仮説があるので、[ダーウィンのUNdiagnosed]の節でミトコンドリア病および事件についてもう一度触れたい。

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