2015年3月1日日曜日

希少疾患におけるWikiの導入

世界希少・難治性疾患の日に関連してここのところ、とあるWikiサイトに新しいページを複数追加して、ひたすらそれを見劣りしないページにすべく更新していた。疲れた。と、同時に疑問が湧いた。なんで、希少疾患って、Wikiへの参加が少ないのだ? Wikiの目的の一つは、更新の労働力を一般人口へと負荷分散することであり、だれでも編集できるんだから、診断済みで難病法の対象疾患となっている患者なら、働いていない場合が統計をとれば多いはずで、そうなると家事の他には自分の病気を世間に訴えて、将来的に行政から自分の疾患への助成を切らせないのが仕事みたいなものなのだから、なおさらWikiに参加する動機があるはずである。しかし、現状、ほとんど誰もWikipediaの希少疾患関連の項目など、更新していない。

理由の一つとして、私のように自分の著作(『UNdiagnosed』)を書いている場合には、とてもやりにくいということがあげられる。どうしても自分の作品の表現に誘導されやすく、客観性を維持しにくく、冷却期間をおかないとWikiに書く気になれない。UNdiagnosedが一部の読者に、美しくない、こんな目立たないの受けないとの批判を受けているため、宣伝用の制作物を作る作業に入って文章を更新する作業から一ヶ月以上遠ざかっていたため、Wikiに書き込むための客観性を確保するのに、今回はそれほど大変ではなかった。以前に書いた同じようなページでは、客観性が維持できなかった部分があり、自分の中でちょっとした黒歴史になっている。その黒歴史のページについては、Wikiはだれでも編集できるのだから、心ある人々が客観的な表現を追加してくれると願って遠ざかっている。

もう一つの理由として、患者の精神状態として、文章をうまく書く余裕がないということがあげられる。肉体的、経済的、生活労働的に追い詰められている状態では、どうしても文章に影ができる。これは、偏見で言っているのではなく、私自身が患者なので、実体験に基づくものである。患者以外によってこういったことが書かれるのは事実上のタブーとされているため、それに乗っかって患者たちもまた、自分たちの心に文章を書くための余裕をどうやって作るかということを議論してこなかった。

以上のような理由があって、患者による希少疾患のWikiが普及していない。日本では特にだが、世界的にみても、そういった患者による書き込みを前提としたWikiは、それほど多くないのが実情である。しかしそれでも検索で探すと例があった。ただし、どうやら、登録しないとWiki自体読めないようになっていて、その点は残念である。

RARE DISEASE FOUNDATION Resources Wiki
This wiki provides descriptions and links to a wide range of services. It is searchable using key words that are listed for each entry.
This wiki is user editable to enable parents to keep all of us up to date about current services. Most lists of health, educational, and social services are out of date by the time they are published. Keeping them up-to-date could be a full time job. We hope that you will help us to provide up to date information and commentary about the services you find useful.
You are also encouraged to add articles and provide links to services that are not already listed.
Great! 患児の両親によって最新の情報が書き込まれることが望まれていて、医療者限定とはひとことも書かれていない。ここまで患者や家族による書き込みが前提になっているものを見たのは初めてである。これが、登録しないと読めない、つまり、書き込みが検索エンジンに加えられない形になっているのは、本当にもったいない。

医療者による書き込みに限られるものとしては、アメリカ国立衛生研究所NIH NCBIのあらゆるデータベース群は、日本の同じようなデータベースよりもかなりオープンで、Wikiの形に近いものがある。私もアカウントを作ったので、一部のデータベースにデータを登録することができるが、自分で自分の変異やシーケンシングデータを登録することを前提としておらず、現在のところ私のデータの登録は中座したままである。データではなく文字として読める範囲ではOMIMが疾患データベースとして有用であるが、こちらは慎重に書き込める者を限っている。間違ったことを書き込まれると患者がうかつに信用して責任問題になりかねないためと思われるが、データを登録する場合と異なって書き込める研究者が狭い範囲に限定されているようである。

かつて、WikiScannerによって明るみ出たスキャンダルのように、政府機関によるWiki、特にWikipediaへの操作は極めて深刻に受け止められた。しかし、実際問題として、ここまで患者が書き込めないと、少なくとも医師、研究者、大学関係者には書き込んでもらわないと、Wikipediaの希少疾患の各疾患の項目はお話にならないお粗末さである。ページが有る疾患が限られすぎているし、ページがあったとしても情報が古すぎる。

しかしWikipediaは、意外なことに、自分が支払われている状況を明記さえすれば、有償で寄稿することも許されている。研究員やGLAMが、基本給で雇われているだけで、直接的な手当なしで寄稿する際には、明記する必要さえない。しかし、予算の獲得とかに利害が絡むと、「自分自身の記事をつくらない」ガイドラインに抵触するはずだし、その場合は公的予算の申請か執行は公表されるはずなので、後で調べれば利害の絡む編集だったと誰かが気がつくと思われる。そもそも研究員は、専門分野という形で、予算の申請分野とWikipediaに書き込む価値のある専門知識は、重複しているものだ。これが、大学関係からの書き込みが避けられて、研究者はいるはずなのにWikipedia日本語版の記述が足りない理由なのだろう。

有償でWikipedian in Residenceを日本のGLAM、つまり図書館や博物館といった公的な機関が雇うということがない限り、なかなかWikipediaの記事は充実することはないだろう。しかし、有償で寄稿するためには、支払われている状況を明記するわけだから、身分を明かすわけである。私自身は、もうDNA検査結果も公表してしまったし、もしもそういった依頼がくれば前向きに検討したいと思っている。匿名性にこだわったとしても情報化社会の昨今では完全に匿名化するのは事実上、不可能である。私のDNAを受け継ぐ子孫に不利益が及ばぬよう配慮して、自ら進んでDNA検査結果および身分を明かしたわけではない、希少疾患の診断を目的として生存権に基づき不可避的に明かしたのだと説明できれば、将来、DNA検査結果のプライバシーに関する法制度がどのようになろうと、私の子孫のプライバシーもまた法的に保護されるであろう。

世界希少・難治性疾患の日というイベントが日本でもいっそう盛り上がっているのに勇気づけられて、DNA検査結果とプライバシーに関する法制度は、楽観的な方向に考えてもよいのではないかという気になった。

というわけで、最初に述べた「とあるWikiサイト」というのは、Wikipediaのことで、ぶっちゃけ、Wikipediaの世界希少・難治性疾患の日のページは、私が作って加筆している。いまのところ、大きな誤記はないと思っているが、見つけた場合は、直接編集するか、ノートに書き込んでいただきたい。

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